大阪地方裁判所 平成7年(ワ)10071号 判決 1999年3月04日
東京都中央区日本橋本町二丁目三番一一号
原告
山之内製薬株式会社
右代表者代表取締役
小野田正愛
右訴訟代理人弁護士
久保田穰
同
増井和夫
右増井和夫復代理人弁護士
橋口尚幸
滋賀県甲賀郡甲賀町大字大原市場三番地
被告
大正薬品工業株式会社
右代表者代表取締役
増井謙治
右訴訟代理人弁護士
品川澄雄
大阪市淀川区宮原三丁目五番三六号
被告
日清キョーリン製薬株式会社
右代表者代表取締役
松山浩
右被告両名訴訟代理人弁護士
吉利靖雄
右訴訟代理人両名補佐人弁理士
青山葆
同
中嶋正二
主文
一 被告日清キョーリン製薬株式会社は、別紙物件目録記載の製剤を販売してはならない。
二 被告大正薬品工業株式会社は、別紙物件目録記載の製剤を製造し、販売してはならない。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
事実及び理由は、別紙「事実及び理由」のとおりであり、それによれば、原告の請求は、理由がある。
よって、主文のとおり判決する(ただし、仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととする。)。
(平成一〇年一一月一〇日口頭弁論終結)
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 瀬戸啓子)
(別紙) 物件目録
下記構造式を有する、化学名2、6-ジメチル-4-(3’-ニトロフエニル)-1、4-ジヒドロピリジン-3、5-ジカルボン酸-3-メチルエステル-5-β-(N-ベンジル-N-メチルアミノ)エチルエステル(一般名ニカルジピン)の塩酸塩の無定形体を、同塩酸塩の約40%含有する徐放性製剤(商品名「パルペジノンLA40mg」及び「パルペジノンLA20mg」)
<省略>
(別紙) 事実及び理由
第1 請求
主文一、二項同旨(なお、訴状添付目録では、ニカルジピン塩酸塩に対する無定形体の同塩酸塩の含有量が約40ないし50%となっているが、原告の主張は本判決別紙物件目録記載の数値に修正されたものと認める。)。
第2 事案の概要
1 基礎となる事実(争いがないか弁論の全趣旨により認められる。)
(1) 原告の特許権
原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許請求の範囲1項にかかる発明を「本件発明」という。)を有している。
ア 発明の名称 ニカルジピン持続性製剤用組成物
イ 出願日 昭和55年3月22日
(特願昭55-36514)
ウ 公告日 昭和59年11月29日
(特公昭59-48810)
エ 登録日 昭和60年7月11日
オ 登録番号 第1272484号
カ 特許請求の範囲(1項)
「無定形2、6-ジメチル-4-(3’-ニトロフエニル)-1、4-ジヒドロピリジン-3、5-ジカルボン酸-3-メチルエステル-5-β-(N-ベンジル-N-メチルアミノ)エチルエステル(ニカルジピン)またはその塩を含有することを特徴とするニカルジピン含有持続性製剤用組成物」(本判決添付の特許公報〔以下「本件特許公報」という。〕参照)
(2) 被告らの行為
被告大正薬品工業株式会社は、塩酸ニカルジピンを含有する徐放性製剤(商品名「パルペジノンLA40mg」及び「パルペジノンLA20mg」。以下「被告製剤」という。)を製造・販売している。
被告日清キョーリン製薬株式会社は、被告製剤を販売している(以下、被告両名を併せて「被告ら」という。)。
(3) 被告製剤の成分
ア 被告製剤は、塩酸ニカルジピン約29%と、賦形剤約71%から成る(甲6、乙24)。
イ 右賦形剤の成分、混合比及び混合順序は、次のとおりである(弁論の全趣旨)。
カルボキシメチルエチルセルロース(以下「CMEC」という。)28mg及びアラビアゴム末10mgをとり、80%エタノール0.095mlを加えて溶かし、軽質無水ケイ酸32mgを加えて造粒し、乾燥する。得られる素顆粒70mgをとり、CMEC17mg、エチルセルロース1.5mg、及びマクロゴール6000 1mgを溶かした80%エタノール溶液0.336mlで一次コーティングを施し、次にポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート2mg及びマクロゴール60001mgを溶かした90%エタノール溶液0.078mlで二次コーティングした後、乾燥する。
乾燥したコーティング顆粒92.5mgをとり、ポリビニルピロリドンK30 3.5mgを溶かした水溶液0.014mlを加えて造粒した後、乾燥したものをプラセボ顆粒状の混合物とする。
得られる化合物を105℃、1時間、シリカゲル共存下、減圧で乾燥した後、メノウ乳鉢で粉砕し、80mesh篩過区分をプラセボ粉末とする。
ウ これによれば、被告製剤中にに、塩酸ニカルジピンが約29%、軽質無水ケイ酸が約24%、その他の賦形剤が約47%含まれている。
2 原告の請求
本件は、原告が、被告らに対し、被告製剤には無定形塩酸ニカルジピンが全塩酸ニカルジピンの約40%含まれており、本件発明の技術的範囲に属するから、その製造・販売は本件特許権を侵害するとして、本件特許権に基づき、その製造・販売の差止めを請求した事案である(なお、以下、特段の記載のない限り、被告製剤中の無定形塩酸ニカルジピン又は結晶形塩酸ニカルジピンの含有量という場合は、被告製剤中における全塩酸ニカルジピン中の各含有量を意味するものとする。)。
3 争点
(1) 本件発明の技術的範囲は、<1>無定形ニカルジピンの含有量、<2>無定形ニカルジピンの生成方法の観点からの限定を受けるか。
(2) 被告製剤中に含有されている無定形塩酸ニカルジピンの量。
4 本件で議論の対象となった主たる実験方法の概要(後掲の各証拠及び弁論の全趣旨。以下、書証番号は、甲1などと略称し、すべての枝番号を含む場合にはその記載を省略する。)
(1) 融解熱DSC測定法
通常、物質は固体、液体及び気体のいずれかの状態で存在するが、このうち固体の状態は、分子の重心が自由に動き回れない状態であり、そのうち結晶形固体の場合は、各分子が重心の位置と向きをそろえて整然と配列している状態にある。この結晶形固体を加熱すると、結晶は特定の温度(融解温度)で融解して液体となるが、その際には、各分子の配列が崩れて自由に動き回るようになるためのエネルギー(融解熱)が吸収される。そして、この融解温度と単位重量当たり融解熱は、各物質に固有のものであり、物質が同一である限りは、融解吸熱量は結晶量に比例する。
融解熱DSC(示差走査熱量分析)測定法は、この原理を利用して、あらかじめ目的結晶物質(本件の場合には結晶形塩酸ニカルジピン)の単位重量当たり融解熱を測定しておき、目的組成物が目的結晶物質の融解温度において示す融解吸熱量(DSCチャートにおいて谷型に示される部分の面積)を測定し、それを右単位重量当たりの融解熱で割って、目的組成物中にどれだけの目的結晶物質が存在するかを定量する方法である(乙32、弁論の全趣旨)。
(2) ガラス転移点DSC測定法
通常、液体を時間をかけて冷却した場合、その物質は分子が整然と配列した結晶状態で固体化するが、結晶化速度を上回る速さで冷却した場合には、結晶化が起こらず、液体の無秩序な配列のままに物質が固体化する。この状態が、無定形固体(非晶固体又はガラス状固体)と呼ばれる。そして、このような無定形固体を加熱すると特定の温度(ガラス転移温度)で液体化するが、この間、分子の無秩序な配列状態に変わりはないので、結晶形固体の場合のような融解熱の吸収はない。しかし、液体と固体とでは比熱(物質1gの温度を1℃上昇させるのに必要な熱量)が異なるので、無定形固体を昇温しながらその吸熱量(昇温するのに必要な熱量)を測定した場合、ガラス転移過程の前後で、無定形固体状態の吸熱量から液体状態への吸熱量へとDSCチャートにおけるベースラインが変化することが測定できる。そして、このベースラインの段差量は、無定形固体の存在量に比例する。
ガラス転移点DSC測定法は、この原理を利用して、あらかじめ目的無定形物質(本件の場合には無定形塩酸ニカルジピン)のガラス転移温度及び無定形固体状態と液体状態との比熱差を測定しておき、次に目的組成物が右ガラス転移温度前後で示すベースラインの段差量を測定し、それを右比熱差で割って、目的組成物中にどれだけ目的無定形物質が存在するかを知る方法である(乙32、弁論の全趣旨)。
もっとも、本件では、無定形塩酸ニカルジピンと被告製剤に使用される賦形剤との混合割合を変化させて配合した複数の試料によって、無定形塩酸ニカルジピンの配合割合とベースライン段差量との検量線を作成しておき、次に被告製剤が無定形塩酸ニカルジピンのガラス転移温度の前後において示すベースライン段差量を測定し、それを右検量線に当てはめるととによって、被告製剤中にどれだけの目的無定形物質が存在するかを定量している(乙24)。
(3) 粉末X線回析測定法
一般に結晶形物質では、構成分子や原子が一定の周期性をもって規則正しく三次元配列して立体的な格子(単位格子)を形成しており、単位格子中の各平面は、多くの平行な面の群(結晶面)を形成している。そして、あらゆる結晶物質は、固有の単位格子の大きさ、各面の傾き及び面間隔を有している。ところで、結晶形物質にX線を当てると、各結晶面において反射が生じるが、その際にはX線の入射角に対して一定の条件を満たす角度(回折角度)のみに回析が生じ、その余の角度での反射X線は互いに干渉によって弱くなり観測されない。そしてこの回析角度と回析強度は各物質に固有である。したがって、結晶を細かく砕いて粉体とし、結晶面が完全にランダムな方向を向いている状態とした状況下で、一方向からX線を照射した場合、X線は各粉体の結晶面で反射し、ランダムに反射することとなるが、その際にはX線照射角に対して上記一定の条件を満たす回析角のみに回析X線が測定されることとなる。
粉末X線回析測定法は、この原理を利用して、あらかじめ目的結晶物質の回析パターン及び回析強度を測定しておき、目的組成物の回析パターン及び回析強度を測定して、それを目的結晶物質の回析パターン及び回析強度と比較することにより、目的組成物中にどれだけの目的結晶物質が存在するかを知る方法である(甲29、乙31)。ただし、粉末X線回折測定法が定量分析に適する方法であるか否かについては争いがある。
もっとも、本件では、結晶形塩酸ニカルジピンと被告製剤に使用される賦形剤との混合割合を変化させて配合した複数の試料によって、一定の回析角について、結晶形塩酸ニカルジピンの配合割合と回析強度との検量線を作成しておき、次に被告製剤の右回析角における回析強度を測定し、それを右検量線に当てはめることによって、被告製剤中にどれだけの目的結晶物質が存在するかを定量している(乙6)。
(4) 偏光顕微鏡観察法
偏光顕微鏡は、普通の光学顕微鏡と異なり、光源と試料との間及び対物レンズと接眼レンズとの間にそれぞれ偏光板を挿入したものである。偏光板は、特定の振動方向の光波しか通さないプリズムであり、2枚の偏光板は通過させる光波の振動方向が互いに直交するように配置されている。そのため、光源から発した光(これは振動方向が限定されない。)は、まず前者の偏光板で特定の振動方向の偏光に変えられ、その偏光が試料に入射・通過するが、振動方向が変更されない限り、光波は、振動方向が直交している後者の偏光板を通過することはなく、視野は暗黒になる。したがって、試料が存在しない場合は視野は暗黒になり、無定形成分の場合も同様になる。しかし、試料が異方性結晶成分の場合には、その内部を通過する光線は、その物質と方位に固有の、直交する速度の違う2つの直線偏光に分かれる複屈折性を有するため、試料を通過した光波は後者の偏光板を通過することができ、その結果、結晶の部分だけが明るく輝いて見える。この輝き(干渉光)の程度や色調は、複屈折の強さに関係し、複屈折の強さは物質固有のものであるので、干渉光の強さを観察することによって、結晶の構造と形態を知ることができる。この方法をN観察法と呼ぶ。
他方、後者の偏光板の下、対象物の上部にジプサム検板と呼ばれる赤色石膏板を挿入すると、視野全体に赤い光が通過するようになり、結晶形粒子のほかに無定形粒子の輪郭をも確認することができるようになる。これをNGP観察法と呼ぶ。
N観察法とNGP観察法における干渉光及び粒子の輪郭を比較することにより、結晶形と無定形を区別するとともに、物質を同定することができる(甲47、甲48、乙6、乙33)。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件特許権の効力範囲)について
【被告らの主張】
(1) 無定形ニカルジピンの含有量について
本件発明は、公知物質であった結晶形塩酸ニカルジピンを無定形にすることにより、優れた徐放性効果を有するものとして特許を受けたものであるにもかかわらず、本件特許権の特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)には、どの程度無定形ニカルジピン又はその塩が含まれていれば実用的な徐放性効果を発揮できるのかについての数値的基準は示されておらず、本件明細書においては、塩酸ニカルジピンがすべて無定形物である場合しか開示されていない。
したがって、(2)の点をも併せ考えれば、本件発明の技術的範囲は、組成物中のニカルジピン又はその塩がすべて無定形である場合に限定されるものと解すべきであり、徐放性効果が別の製剤手段によって達成されている場合には、本件発明の技術的範囲から除外されるべきである。
また、現在の日本薬局方の融点規格に合致する結晶形塩酸ニカルジピンの中には、約50%もの無定形塩酸ニカルジピンを含むものがあるから、少なくとも50%が無定形物である結晶形塩酸ニカルジピンを使用する常法による塩酸ニカルジピン製剤は、本件特許権の出願前から公知であった。
したがって、本件発明の技術的範囲は、少なくとも無定形物が50%以下の塩酸ニカルジピンを使用する場合までは及ばない。
(2) 無定形ニカルジピンの生成方法について
本件特許権の出願前から公知常用されていた製剤技術によって製剤中に無定形塩酸ニカルジピンが含有されるに至った場合は、本件発明の技術的範囲から除外されなければならないところ、製剤過程において軽質無水ケイ酸を配合することは古くからの製剤技術であるから、仮に軽質無水ケイ酸の作用によつて結晶形塩酸ニカルジピンが無定形化する場合には、本件発明の技術的範囲から除外されなければならない。
また、このような公知技術との区別を明確にするために、本件発明の技術的範囲は、本件明細書の実施例に記載されているような、異常に長時間ボールミルという特殊な粉砕装置を用いて結晶形塩酸ニカルジピンを摩擦粉砕して無定形塩酸ニカルジピンを得る場合に限定されるべきであり、原告自身、本件特許権の後願の特許出願の明細書(乙20)では、本件発明の特徴は特殊な摩擦粉末操作で得られた塩酸ニカルジピンを使用する点にあるとの認識を示している。
【原告の主張】
(1) 無定形ニカルジピンの含有量について
原告の主張は、被告製剤中に約40%の無定形塩酸ニカルジピンが含有されているというものであり、被告製品中にわずかでも無定形塩酸ニカルジピンが含まれていれば本件特許権を侵害すると主張しているものではない。
また、被告製剤は、このような含有量であっても、現に本件発明が意図する徐放性効果を有しているのであるから、本件発明の技術的範囲を、組成物中の塩酸ニカルジピンがすべて無定形である場合に限定すべきであるとする被告らの主張は失当である。
被告らは、本件特許権の出願前に公知の結晶形塩酸ニカルジピンには、約50%の無定形物を含むものがあると主張するが、そのようなことはない。仮に、最近の結晶形塩酸ニカルジピンの粗悪品としてそのような物が存在していたとしても、本件発明の技術的範囲には影響がない。
(2) 無定形ニカルジピンの生成方法について
無定形ニカルジピンの生成方法は、本件発明の技術的範囲には関係がない。仮に結晶形塩酸ニカルジピンに軽質無水ケイ酸を配合することによって無定形塩酸ニカルジピンが生じたのであれば、軽質無水ケイ酸の配合が公知技術であるか否かを問わず、それを使用してはならない。
2 争点(2)(被告製剤における無定形塩酸ニカルジピンの含有量)について
【原告の主張】
被告製剤中には、約40%の無定形塩酸ニカルジピンが含まれている。
(1) 融解熱DSC測定法に基づく主張
ア 基本的主張
融解熱DSC測定法により、被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピンの量を定量すると約60%であった。したがって、被告製剤中の無定形塩酸ニカルジピンの含有量は約40%である(甲6)。
イ 被告らの主張((3))に対する反論
被告らは、融解熱DSC測定法による被告製剤の測定結果について種々の問題点を指摘する。しかし、以下の点から、被告らの主張は失当である。
(ア) 融解熱DSC測定法の一般的信頼性について
融解熱DSC測定法は、既に一般的な結晶量の測定法として認知されており、無定形物の直接的な定量方法でないことは、測定法としての信頼性に何ら影響がない。
(イ) 軽質無水ケイ酸との相互作用による吸熱量の低下について
軽質無水ケイ酸には、一般に結晶を無定形化させる性質があるから、乙2の実験において結晶形塩酸ニカルジピンの含有量が60%と測定されたのは、試料を調整する際に、軽質無水ケイ酸の存在によって、それだけ結晶形塩酸ニカルジピンが無定形化したためである。
(ウ) 賦形剤との相互作用による吸熱量の低下について
被告製剤中に賦形剤のような混在物があるからといって結晶の融解熱が変化することはなく、また、原告は、試料に熱履歴を与える等の種々の実験により、賦形剤と結晶形塩酸ニカルジピンとの相互作用の有無を測定したところ、いずれも影響は見られなかった(甲19ないし21)。
(エ) 検量線について
融解熱DSC測定法の場合には、測定値(融解吸熱量)から直接に結晶形塩酸ニカルジピンの量が算出されるのであるから、検量線を作成することは不要である。
(2) 被告製剤の製法に基づく主張
被告製剤の製剤方法と推定される、被告大正薬品工業株式会社が「ニカルジピン持続性剤とその製造方法」の名称で平成4年11月13日に特許出願している方法(甲11)に従って追試を行い、得られた製剤について融解熱DSC測定法及び粉末X線回析測定法を実施したところ、得られた製剤中の塩酸ニカルジピンの約40%強が無定形化していることが認められた(甲12、甲13)。
(3) 原告製剤の効能書に基づく被告らの主張((2))に対する反論
被告らが指摘する原告製剤の効能書の記載は、原告製剤の有効成分である塩酸ニカルジピンについての一般的性状を記載した部分であり、製剤中での性状を記載しているわけではない。原告は、結晶形塩酸ニカルジピンを原料として、他の成分とともに溶剤に溶解して噴霧乾燥する製剤方法をとっており、これによって結晶形塩酸ニカルジピンがすべて無定形化している。
(4) ガラス転移点DSC測定法に基づく被告らの主張((4))に対する反論
結晶の融点や融解熱が物質によって一定した固有値であるのに対し、ガラス状態というのは一様ではなく、ガラス転移温度は、加熱や冷却の温度を変えるだけで変動し、また、単一物質のガラス状態と混合物中のガラス状態とでは、性質が異なるはずである。したがって、ガラス転移過程のDSC曲線もガラス状態に応じて多種多様であり、安定した定量性(再現性)を認めることができない。このように、ガラス転移点DSC測定法は、融解熱DSC測定法と比べて、定量分析法として一般に実用に供し得るとの認識が成立しているものではなく、定量分析が可能であるとしても、極めて限られた条件下でのみ適用され得るにすぎない。
実際、ガラス転移点DSC測定法によって原告側で種々の実験を行ったところ、安定した再現性が認められない(甲34、甲36)。
(5) 粉末X線回析測定法に基づく被告らの主張((5))に対する反論
ア 一般的な信頼性について
粉末X線回析測定法は、装置、測定者、試料の状態等の要因により、安定した定量結果を得ることができず、文献上も定量分析には適切でないとされている。現に原告側の追試においても被告ら側の試験と大きな相違が生じた(甲27)。
イ 回析角の選択について
被告らは、回析角のうちの一部について検量線を作成しているにすぎないが、その回析角の選択は恣意的である。しかも、粉末X線回析測定法における定量分析では、強度の強い回析角を選択すべきところ、上記角度よりも回析強度の強い回析角では、有意な検量線を得ることができない。また、粉末X線回析チャートにおける各回析角のピークは、一つの物質(結晶)の単位格子における別々の結晶面での回析を示しているのであるから、回析強度が結晶の存在量に比例するのであれば、原則としてどの回析角についても検量線が作成できなければならない。したがって、被告らが作成できたとする検量線は、偶然に作成できたものといわざるを得ない。
ウ 軽質無水ケイ酸の影響について
乙7の実験においては、結晶形塩酸ニカルジピンと被告製剤に使用されている賦形剤をメノウ乳鉢で均一に混合しているが、賦形剤には軽質無水ケイ酸が含まれているから、その作用により、検体を調整する過程で、結晶形塩酸ニカルジピンが無定形化することになる。結晶形塩酸ニカルジピンのX線回析強度は、軽質無水ケイ酸の添加量が増すに連れて顕著に低下するのであり(甲22、甲32)、乙7の実験においては、軽質無水ケイ酸の配合量が異なる種々の試料を用いて検量線を作成したのであるから、このような試料によって、結晶形塩酸ニカルジピンの量と回析強度との間の検量線を作成できる筈がなく、できたとしても偶然にすぎない。
(6) 偏光顕微鏡観察法に基づく被告らの主張((6))に対する反論
被告らは、乙6により、被告製剤の写真には無定形塩酸ニカルジピンが観察されないと主張するが、ガラス状物質というのは、試料の粉砕条件や他物質との混合の有無等によって大きさや形状が変化し得るのであるから、被告製剤の写真を標準品の無定形塩酸ニカルジピンの写真と比較して論じることはできない。
また、浸潤液としてイマージョン油を用いた原告の追試結果によれば、被告製剤の写真には、結晶形の存在を示す干渉光が観察されたが、それに加えて、標準の無定形塩酸ニカルジピンの粒子によく似たガラス状の粒子も観察された(甲23)。さらに、浸潤液としてオリーブ油を用いた原告の追試結果によっても同様の結果が得られた(甲38)。
このように、偏光顕微鏡観察法の結果は、むしろ原告の主張を裏付けているものというべきである。
【被告らの主張】
被告製剤中の塩酸ニカルジピンは、ほぼすべてが結晶形である。
(1) 被告製剤の製法に基づく原告の主張((2))に対する反論
被告製剤の原料たる塩酸ニカルジピンは結晶形であるが、被告らは、これを用いて被告製剤を製造するに当たり、その結晶性を喪失させる何らの手段を施していない。被告製剤の徐放性は、無定形塩酸ニカルジピンによってではなく、被告ら独自の製剤方法によって得られている。
(2) 原告製剤の効能書について
被告製剤は、原告が製造販売している「ペルジピンLA20mg」、「ペルジピンLA40mg」(以下「原告製剤」という。)の後発医薬品として、厚生大臣からその製造販売の承認を得たものであるから、被告製剤に使用されている塩酸ニカルジピン原末は、原告製剤のそれと同一性があることが確認されているところ、原告製剤の効能書(甲4)には、「有効成分の理化学的知見」として、「塩酸ニカルジピンは帯緑黄色の結晶性の粉末」と記載されている。このように原告製剤中の塩酸ニカルジピンが結晶性である以上、その後発医薬品たる被告製剤中の塩酸ニカルジピンも結晶性である。
(3) 融解熱DSC測定法に基づく原告の主張((1))に対する反論
融解熱DSC測定法は、被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピンの量を定量する方法であるにすぎず、無定形塩酸ニカルジピンの量を直接に定量するものではないことに伴う錯乱要因がある。加えて、結晶形塩酸ニカルジピンを定量する際にも種々の要因によって測定値が変動、錯乱し、結晶形塩酸ニカルジピンの含有量が実際よりも過少に測定される欠陥がある。
ア 被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピンの結晶化度
原告は、被告製剤の吸熱量から結晶形塩酸ニカルジピンの量を計算するに当たって、被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピンの結晶化度がすべて100%であることを前提に、その単位重量当たり融解熱を用いて計算をしている。しかし、結晶構造を持つ化合物は何らかの意味で配列の乱れを持つ不完全な結晶であるのが通常であり、すべてが完全結晶であることは極めて少ない。不完全結晶の単位重量当たり融解熱は完全結晶よりも小さいから、原告の計算方法によれば、被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピンは、実際よりも過少となる。
イ 軽質無水ケイ酸との相互作用による吸熱量の低下
被告製剤には、軽質無水ケイ酸が賦形剤として含まれているが、融解熱DSC測定法の昇温過程においては、結晶形塩酸ニカルジピンの融体が軽質無水ケイ酸に吸着され、その際に吸着熱が発生する等の相互作用のため、結晶形塩酸ニカルジピンの融解による吸熱量が実際よりも過少に測定され、その結果、結晶形塩酸ニカルジピン量が過少に計算されることとなる。実際、被告製剤中に含まれるのと同一の割合で結晶形塩酸ニカルジピンと軽質無水ケイ酸とを混合した検体について融解熱DSC測定法を実施すると、塩酸ニカルジピンのすべてが結晶形である筈のところが、60%しか結晶形でない(すなわち40%は無定形である)旨の計算結果となった(乙2)。
ウ 賦形剤との相互作用による吸熱量の低下
被告製剤には、軽質無水ケイ酸を始め、種々の物質が賦形剤として含まれているが、融解熱DSC測定法の昇温過程においては、これらの賦形剤と結晶形塩酸ニカルジピンとの相互作用により、結晶形塩酸ニカルジピンの融解による吸熱量が過少に測定されることとなる。実際、結晶形塩酸ニカルジピン原末と被告製剤の双方について、165℃の熱履歴を与えた上で融解熱DSC測定法を実施し、その融解吸熱量を熱履歴を与えない場合と比較したところ、結晶形塩酸ニカルジピン原末の場合には10%の融解吸熱量の低下にとどまったのが、被告製剤場合には、31.4%も低下するに至った(乙11)。
エ 検量線の不存在
融解熱DSC測定法は、このように共存物質の影響によって測定吸熱量に影響が生じる測定法であるから、これを用いて結晶形塩酸ニカルジピンの定量を行うに当たっては、種々の賦形剤との共存下における検量線を作成した上で定量すべきであるのに、原告はそれを怠っている。
(4) ガラス転移点DSC測定法について
ア 基本的主張
ガラス転移点DSC測定法は、直接に無定形物の定量を行う測定法であり、実験条件を慎重に整えれば再現性もあるから、融解熱DSC測定法よりも信頼性がある。現に、試料の熱履歴等の錯乱要因を排除した上でガラス転移点DSC測定法を実施すると、賦形剤が共存する条件下でも無定形塩酸ニカルジピンの量を再現性よく定量することができたのであり、それによれば、被告製剤中には無定形塩酸ニカルジピンは存在しないことが確認された(乙24)。
イ 原告の主張((4))に対する反論
原告が指摘する原告側の実験(甲34、甲36)では、実験技術の未熟や対象試料の状態の変化等のために再現性が得られなかったか、又は理論上もしくは実験上の誤差の範囲で被告らの実験結果と合致しているのであり、ガラス転移点DSC測定法の信頼性に問題はない(乙29)。
(5) 粉末X線回析測定法について
ア 基本的主張
粉末X線回析測定法は、種々の文献において定量分析にも適する旨記載されている方法であるが、融解熱DSC測定法と異なり、塩酸ニカルジピンのような化合物を構成する分子の配列状態を、あるがままの存在状態で調べる物理的手段であり、常温の下で、何らの外的刺激を加えることなく実施され、測定目的を達するものであるから、融解熱DSC測定法と比べて測定結果を信頼できるものである。
そこで、結晶形塩酸ニカルジピンと被告製剤に使用する賦形剤成分との混合試料を作り、それらの混合割合を変化させて、結晶形塩酸ニカルジピン量と回析線強度との関係を示す検量線を作成した上、被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピン量を測定したところ、約95%であった(乙7、乙10)。
イ 原告の主張((5))に対する反論
(ア) 粉末X線回析測定法の一般的信頼性について
粉末X線回析測定法は、種々の文献でも定量分析に適する旨が記載されており、一般的な信頼性に問題はない。
(イ) 回析角の選択について
検量線作成のための回析角の選択については、種々の文献でも選択する回析角度は1本で足りる旨が記載されており、本件では、他物質のX線回析の影響を受けない回析角を選択したにすぎない。
(ウ) 軽質無水ケイ酸の影響について
軽質無水ケイ酸がその他の賦形剤と共に結晶形塩酸ニカルジピンと共存している組成物について、各物質のX線吸収係数のみを考慮した理論的検量線を作成してみると、原告の実験結果(甲22)は、誤差の範囲で理論的検量線に符合する。したがって、軽質無水ケイ酸の共存による影響は、結晶形塩酸ニカルジピンの無定形化によるものではなく、X線吸収係数の相違によるものであり、それは被告らの検量線作成の際に理論的に補正されている(乙14)。
(6) 偏光顕微鏡観察法について
ア 基本的主張
偏光顕微鏡観察法では、被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピンの定量はできないが、融解熱DSC測定法と比べて、被告製剤中に無定形塩酸ニカルジピンが存在しないことを写真を通して肉眼で確認できる点に長所がある。そして、無定形品だけを含む原告製剤の写真では、N観察法では結晶に由来する特有の光輝(干渉光)が見られず、NGP観察法では無定形品の輪郭が見られるのに対し、被告製剤の写真においては、結晶に由来する干渉光ばかりを示し、無定形品が含まれていないことが示されている(乙6)。
イ 原告の主張((6))に対する反論
原告指摘の被告製剤の偏光顕微鏡写真に写っているガラス状物質(甲38)は、賦形剤の可能性が高い(乙30、乙33)。また、浸潤液にイマージョン油を使用する(甲23)のは不適当である。
第4 争点に対する当裁判所の判断
1 争点(1)(本件特許権の効力範囲)について
(1) 本件発明の特許請求の範囲の記載には、無定形ニカルジピンの含有量について限定的な記載はない。また、本件特許公報(甲2)によれば、本件明細書には次の記載があるものと認められる。
ア 「ニカルジピンは冠および脳血管拡張作用を有し脳血管障害、高血圧および狭心症の治療薬として有用である。」(本件特許公報2欄8ないし10行目)
イ 「ニカルジピンまたはその塩は日本薬局方Ⅸ(第1液に対する溶解性は良好であるので通常の製剤で充分その薬効を発現するが、日本薬局方Ⅸ第2液には難溶性であって腸溶性に劣るためにその持続性製剤の実現が困難であった。」(同2欄11ないし15行目)
ウ 「本発明者らはこのような技術下にニカルジピンの持続性製剤について種々研究を重ねた結果、意外にもニカルジピンを無定形(amorphous)にすることにより腸溶性を改善する添加物を配合することなく優れた持続性効果を有するニカルジピンの製剤用組成物が得られることを見出し本発明を完成した。本発明は無定形ニカルジピンまたはその塩を含有する医薬組成物を提供するもので本発明組成物はニカルジピンの腸液における溶解度が小さいにもかかわらず腸管粘膜からの吸収性に優れ、長時間にわたり安定したニカルジピンの有効血中濃度を維持できる。」(同2欄31ないし3欄5行目)
エ 「本発明において無定形ニカルジピンはニカルジピン原末を摩擦粉砕して得ることができるが、好ましくはボールミルまたは振動ボールミルで微細粉末にすることにより得られる。」(同3欄6ないし9行目)
オ 「粉砕するに際しては砕料の付着、凝集を減少させその微細化を図るために粉砕助剤の添加が好ましく、たとえば乳酸カルシウム…等の添加が好ましい。」(同3欄17ないし23行目)
カ 「ニカルジピン原末の配合量は適宜選択できるが通常組成物中その全重量に対して5~90%、好ましくは10~70%、さらに好ましくは20~40%である。」(同3欄25ないし29行目)
キ 「ニカルジピン原末は通常結晶形を有するが(たとえばニカルジピン塩酸塩は融点168~170℃の結晶)、原末製造過程で無定形のものを得ることも可能でありその場合にはそのまま本発明の組成物となすことができる。」(同3欄29ないし33行目)
ク 「本発明のニカルジピンの無定形の微細粉末はこれに例えばオイドラギットRLやRS(商品名)等を用いて遅効性コーティングを施しただけで持続性効果が達成されるが、微細粉末化工程前後においてpH依存性添加剤、増粘剤または水不溶性添加剤等を添加し、これを製剤化することにより持続性効果を得ることもできる。」(同3欄34ないし40行目)
ケ 「本発明組成物は常法により成形して顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤に調製することができる。これらの製剤を調製する際に通常使用される賦形剤、結合剤、崩壊剤等をさらに添加することもできる。」(同4欄20ないし24行目)
(2) これらの明細書の記載からすれば、本件発明は、およそ従来は持続性効果を有することが知られていなかった無定形ニカルジピンに同効果を有することを見出して、それによる持続性製剤用組成物を得た点に特徴を有するものであると認められる。また、本件明細書を通覧しても、本件発明の組成物たるために、製剤の全ニカルジピン中にどの程度の無定形物が含有されでいる必要があるのかについて特段の記載をしている箇所はない(先に(1)カで引用した記載部分は、本件発明に係る組成物を得る方法として、結晶形ニカルジピンに粉砕助剤を添加して摩擦粉砕する方法による場合の結晶形ニカルジピン原末の配合割合を記載しているにとどまり、製剤の全ニカルジピン中の無定形物の含有割合を示すものではない。)。
他方、先に(1)アでの引用箇所及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の出願以前から、結晶形塩酸ニカルジピンを用いたニカルジピン製剤は公知であったことが認められる。
以上からすれば、本件発明の出願前からニカルジピン製剤に用いられていた結晶形塩酸ニカルジピンに不純物等として含有されていた程度以上に、製剤中に無定形ニカルジピンを含んでいれば、その製剤は本件発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。
(3) これに対して被告らは、本件発明の組成物が実用的な持続性効果を発揮するためには、無定形ニカルジピン又はその塩をどの程度含有されている必要があるかについて何ら記載がなく、明細書には全量が無定形ニカルジピンである場合しか開示されていないから、本件発明の技術的範囲は、全量が無定形ニカルジピンの場合に限られるべきであると主張する。
しかし、前記のように、本件発明は、無定形ニカルジピンに腸管粘膜からの吸収性に富み優れた持続性効果を有することを見出した点に特徴を有するものであるから、無定形ニカルジピンの含有量が低い場合には持続性効果を有しないことを窺わせる証拠もない以上、本件発明の技術的範囲を、製剤中の含有ニカルジピンのすべてが無定形の場合に限定して解釈することはできない。
(4) また被告らは、本件発明の特許出願以前から現在の日本薬局方と同じ規格の結晶形塩酸ニカルジピンが公知であり、その融点が167ないし171℃のものと記載されていた(乙3、乙4)ところ、過去約七年間に市場で入手し得た結晶形塩酸ニカルジピンには、右の融点規格を満たしながら、約50%の無定形塩酸ニカルジピンを含有するものがあった(乙22)から、少なくとも約50%の無定形化物を含む常法による塩酸ニカルジピン製剤は公知物質として、本件発明の技術的範囲から除外されるべきであると主張する。
しかし、乙22(市販の塩酸ニカルジピンについての試験結果)によっても、無定形物の含有率が10%を超えるのは、検体15(含有率47.1%、購入年月日平成7年10月18日、融点169℃)及び検体16(含有率15.6%、購入年月日平成9年11月10日、融点169.5℃)のみである。また、検体の購入年月日が最も古いものでも平成2年7月(検体1)であり、その無定形物の含有率は7.8%(融点168.6℃)にすぎない。したがって、乙22から直ちに、無定形物を約50%含む結晶形塩酸ニカルジピンが本件発明の特許出願前にニカルジピン製剤に利用されていたと認めることはできない。この点被告らは、乙22の検体の融点が日本薬局方の塩酸ニカルジピンの融点規格(乙3、乙4)を満たすことをその主張の根拠とするが、右融点規格を満たす結晶形塩酸ニカルジピンが本件発明の出願前からニカルジピン製剤に利用されていたことを仮に前提するとしても、右の融点規格を満たすことから直ちに無定形物の含有量の同一性までを推認することはできず、現に乙22の各検体を見ても、融点規格を満たしながら無定形物の含有量は区々である。
以上より、被告らの右主張は採用できない。
(5) さらに被告らは、本件発明の出願前から公知常用の製剤方法である軽質無水ケイ酸の配合によって、原末たる結晶形ニカルジピンが無定形化した場合には、本件発明の技術的範囲から除外されるべきであると主張する。しかし、被告製剤の製造方法は、被告ら自身が開示しないために明らかとなっておらず、被告製剤中に無定形塩酸ニカルジピンが含まれる場合に、それが製剤工程に起因するのか、またどのような製剤工程に起因するのか判然としない。したがって、仮に一般論としては被告らの右主張を容れるとしても、それゆえに本件の被告製剤に本件発明の技術的範囲が及ばないとすることはできない。
また、被告らは、軽質無水ケイ酸の配合による無定形化と区別するために、本件発明の技術的範囲は、本件明細書の実施例に開示されたような、特殊な摩擦粉砕の方法を用いて無定形塩酸ニカルジピンを得た場合に限定すべきであり、現に原告も、後願の特許出願の明細書(乙20)において、本件発明の特徴を右の点に求めていると主張する。
しかし、本件発明は物に関する発明であって方法に関する発明ではない上に、無定形ニカルジピンの製造方法が摩擦粉砕の方法に限定されないことは先に引用した明細書の記載((1)キ)に照らして明らかである。また被告らが指摘する乙20には、「ニカルジピンの持続性製剤としては…ニカルジピン結晶を必要により粉砕助剤を用いて摩擦粉砕し、更に粉砕の前後いずれかにpH依存性添加剤、増粘剤などを加えて持続製剤とする方法…が知られている」として本件発明の公開特許公報が引用されていることが認められるが、乙20にかかる発明は、ニカルジピン原末、腸溶性基剤(又は胃溶性基剤)及び界面活性剤等を用いてニカルジピン持続性製剤用球形顆粒を製造する具体的製剤方法を発明した点に特徴があるものと認められるところ、先に引用した記載は、ニカルジピン持続性製剤を得るための具体的製造方法という観点から、本件発明の公開特許公報の記載を引用したにすぎないものであると解されるから、右記載を根拠に、本件発明の技術的範囲を限定することはできない。
なお乙20には、右記載に続いて、「これらの方法で得られたものは投与後短時間に有効血中濃度まで上昇しない、最低有効血中濃度が充分持続しない、血中濃度の個体間変動が大きい等の欠点がみられた」との記載があるが、先に(2)で述べた本件発明の特徴からすれば、右欠点は本件発明に係る持続性製剤用組成物を実施化するに当たり、更に改良すべき点が存在することを示すにとどまるものであるから、それを根拠に直ちに本件発明の技術的範囲を限定して解釈することはできない。
2 争点(2)(被告製剤中に含有されている無定形ニカルジピン量)のうちの融解熱DSC測定法による検討について
(1) 甲6によれば、被告製剤について融解熱DSC測定を行ったところ、被告製剤中の無定形塩酸ニカルジピンの含有割合は、各回の実験数値を平均すると、45.6%と計算されたことが認められる。この具体的な測定及び計算過程は、次のとおりである(各数値は甲6の各回の実験の平均値による。)。
ア 結晶形塩酸ニカルジピンの1g当たり融解吸熱量を融解熱DSC測定法によって求めると85.08J/gであった。
イ 被告製剤中の塩酸ニカルジピン含有量は、28.5%であった。
ウ 被告製剤5.05mgについて融解熱DSC測定法を実施し、結晶形塩酸ニカルジピンの融解温度(167ないし171℃)付近での吸熱量を測定すると66.64mJであった。
エ したがって、被告製剤5.05mg中の結晶形塩酸ニカルジピンの量は、66.64mJ/85.08J/g=0.783mgである。
オ 他方、被告製剤中の塩酸ニカルジピンの総量は、5.05mg×0.285=1.439mgである。
カ したがって、被告製剤中の無定形塩酸ニカルジピンの含有量は、1.439mg-0.783mg=0.656mgである。
キ また、被告製剤中の無定形塩酸ニカルジピンの含有割合は、0.656mg/1.439mg=45.6%となる。
そして、甲18によれば、結晶形塩酸ニカルジピンは少なくとも200℃までは昇華が生じないと認められるから、甲6の融解吸熱量の測定には、被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピンの昇華による影響はないと認められる。
この甲6の実験結果について、被告らは種々の問題点を指摘するので、以下検討する。
(2) まず被告らは、甲6においては、被告製剤の吸熱量から結晶形塩酸ニカルジピンの含有量を計算するに当たって((1)エの過程)、完全結晶状態にある結晶形塩酸ニカルジピンの単位重量当たり融解吸熱量を分母としているが、被告製剤中の結晶形ニカルジピンがすべて完全結晶状態にあることはなく、不完全結晶の場合には単位重量当たり融解吸熱量が小さくなるから、甲6の計算方法によれば、被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピンの含有量が過少となり、その結果、無定形塩酸ニカルジピンの含有量が過大となる問題点があると主張する。
ところで乙1及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、被告製剤の原料として訴外株式会社三洋化学研究所の製造に係る結晶形塩酸ニカルジピンを使用しており、乙1の4によれば、その中には製造番号95010のものが含まれていることが認められる。そして、この製造番号の結晶形塩酸ニカルジピンの1g当たりの融解吸熱量(J/g)は、80.19(乙2)、81.75(乙11)、83.60(乙22)、83.85(乙35)、85.91(乙37)であると認められる(乙37は本件口頭弁論終結後に提出されたものであるが、念のために検討の対象に加えたものである。以下同じ。)。
そうすると、(1)アのとおり甲6での計算に使用した結晶形塩酸ニカルジピンの単位融解吸熱量は85.08J/gであるから、被告製剤に原料として使用されている結晶形塩酸ニカルジピンの単位融解吸熱量とほぼ等しいものといえる。したがって、甲6の計算において、被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピンの含有量が過少に導かれたということはできない。
(3) 次に被告らは、被告製剤には賦形剤として軽質無水ケイ酸が含まれているところ、結晶形塩酸ニカルジピンと軽質無水ケイ酸が共存していれば、結晶形塩酸ニカルジピンの融解吸熱量が過少に測定されることになる((1)ウの過程)ため、それだけ結晶形塩酸ニカルジピンの含有量が過少に算出されるとの問題点を指摘する。
確かに、乙2によれば、結晶形塩酸ニカルジピンと軽質無水ケイ酸とを被告製剤中の配合処方比(前者が約55%、後者が約45%)で配合(メノウ乳鉢で均一に混合)した試料について甲6と同様の方法で融解熱DSC測定を行うと、試料中の結晶形塩酸ニカルジピンの融解による吸熱量は、試料中の配合量から計算した理論値と比べて41.4%低く測定されることが認められる。
また、乙35(検体1ないし4)によれば、結晶形塩酸ニカルジピンと軽質無水ケイ酸とを種々の混合比で配合(振とう機で5分間振とうして混合)した試料について融解熱DSC測定法を実施したところ、試料中の結晶形塩酸ニカルジピンの融解吸熱量は、<1>結晶形塩酸ニカルジピン15%(軽質無水ケイ酸85%)の場合には理論値と比べて52.3%低く、<2>同35%(同65%)の場合には35.7%低く、<3>同55%(同45%)の場合には28.9%低く、<4>同75%(同25%)の場合には23.9%低く測定されたことが認められる。
これらの吸熱量低下の原因について、被告らは、軽質無水ケイ酸が結晶形塩酸ニカルジピンの融体を吸着する際に発生する吸着熱のために、結晶形塩酸ニカルジピンの融解吸熱量が相殺されたのであると主張する。しかし、甲42によれば、結晶形塩酸ニカルジピンと軽質無水ケイ酸を被告製剤における配合割合にほぼ等しい7:6で混合した場合、168.3℃の状態下での軽質無水ケイ酸の吸着熱量は、結晶形塩酸ニカルジピン1g当たり2Jであることが認められ、これは甲6による結晶形塩酸ニカルジピンの1g当たり融解吸熱量(85.08J)の約2.4%にすぎないことが認められるから、吸着熱による影響はわずかにすぎない。甲42について被告らは、実験の詳細が明らかでないと主張するが、甲42は追試可能な程度にその内容が明らかにされているといえ、その信頼性を疑わせるに足りる証拠はない。
他方、原告は、乙2及び乙35における融解吸熱量の低下の原因について、試料調整過程において、軽質無水ケイ酸の作用により結晶形塩酸ニカルジピンが無定形化したためであると主張するので検討するに、まず、甲8及び甲9によれば、一般に軽質無水ケイ酸は、その広い表面にあるシラノール基のために、結晶を非晶化(無定形化)させる性質があることが認められる。
また、甲32は、組成が同じSiO2である石英砂(比表面積が小さい)と軽質無水ケイ酸(比表面積が大きい)を配合量を変えて、それぞれ一定量の結晶形塩酸ニカルジピンと混合させた試料(試料全体の重量を同一にするために他にCMECを加えて重量を調整している。)について粉末X線回折測定を実施した実験であるが、石英砂と軽質無水ケイ酸とは同一の組成を有してX線吸収係数も同一であるから、仮にそれらの配合によるX線回析強度の低下がX線吸収係数の影響にのみよるのであれば、それらの配合によるX線回折強度の低下も同一になるはずであるにもかかわらず、軽質無水ケイ酸を配合した試料の回折強度の方が、石英砂を配合した回折強度に比べて低下の程度が大きくなることが認められる。そして図2によれば、このような差異は各配合割合を通じて安定して認められるから、これが実験誤差によるものとは言い難く、他にこの実験結果の信頼性を疑わせるに足りる証拠はない(甲32に対する被告らの反論については、粉末X線回折測定法に関する検討の中でまとめて述べる。)。そしてこのうち石英砂については、乙37(実験3)によると、結晶形塩酸ニカルジピン約48%と石英砂約52%を配合した試料について融解熱DSC測定法を実施したところ、結晶形塩酸ニカルジピンの融解吸熱量の低下は見られなかったことが認められるから、石英砂には結晶形塩酸ニカルジピンを無定形化する作用はないことが認められる。
以上よりすれば、乙32における回折強度の相違は、軽質無水ケイ酸と結晶形塩酸ニカルジピンの摩擦配合による無定形化によるものと考えるのが合理的である。
さらに、乙35(検体3、5及び6)によれば、結晶形塩酸ニカルジピンと軽質無水ケイ酸の配合量を同一とした試料について融解熱DSC測定を実施したところ、両成分の混合状態が均一であるほど融解吸熱量が低下していることが認められるが、この点も、右の推認を裏付けるものである。
これに対し、乙35(検体5)によれば、軽質無水ケイ酸と結晶形塩酸ニカルジピンを重ね置いただけの試料でも融解吸熱量は16.3%低下することが認められ、被告らはこのことから、このような無定形化がほとんど起こらないような状態でさえ融解吸熱量が相当程度低下する点で、軽質無水ケイ酸が混在していると融解吸熱量が過少に測定されると主張する。しかし、融解熱DSC測定法は検体の吸熱量を測定するものであるから、検体全体の比熱を均質化して実施する必要があるところ、上記検体5では検体全体の比熱が均質化されていない点に問題がある上、そのように試料の状態が異なる実験結果を直ちに被告製剤のそれと比較することにも問題がある。さらに、軽質無水ケイ酸の粒子は極めて細かいから(乙16の注3)、結晶形塩酸ニカルジピンとの境界面で混合接触して無定形化が生じることも考えられる。したがって、被告らの右主張は採用できない。
また乙37によれば、軽質無水ケイ酸と組成(SiO2)及び吸着性を有する点で同一のシリカゲルと結晶形塩酸ニカルジピンとを35:8の割合で混合(試料をセルに入れて振って混和)した試料について融解熱DSC測定法を行ったところ、結晶形塩酸ニカルジピンの融解吸熱量は理論値から21.3%低下したが(実験1)、シリカゲルと結晶形塩酸ニカルジピンとを混合した後シリカゲルを除去した試料について融解熱DSC測定法を行ったところ、結晶形塩酸ニカルジピンの融解吸熱量は理論値から低下しなかったことが認められ(実験2)、この実験2からすれば、シリカゲルとの混合によって結晶形塩酸ニカルジピンは無定形化しなかったものと認められる。そして、この点から被告らは、無定形化が生じていないにもかかわらず混合試料の融解熱量が低下した原因は、シリカゲルの混在下では融解熱DSC測定法による融解吸熱量は過少に測定されるとし、この点は同じ成分で同じ比表面積の大きい軽質無水ケイ酸でも同様であると主張する。
確かにシリカゲルは極めて大きな比表面積を有し、吸着性を有するが、軽質無水ケイ酸と異なり細孔性物質で、その平均細孔径は22ないし140Aであり(本件口頭弁論終結後に提出された乙38の表1・2参照)、固体状の結晶形塩酸ニカルジピンはシリカゲルの細孔内に入れないので、常温で振とうするだけでは無定形化が生じまいものと考えられる。他方、昇温によって結晶形塩酸ニカルジピンが融解して液状となると右細孔内に入ることができるようになるところ、右実験におけるシリカゲルの配合割合は、被告製剤における配合割合よりもはるかに大きいから、吸着熱の影響もそれだけ無視できない大きさになっていることも考えられる。また、原告も指摘するように、シリカゲルについての実験結果をどこまで軽質無水ケイ酸の場合に適用し得るのかも問題がある。したがって、乙37から直ちに軽質無水ケイ酸による結晶形塩酸ニカルジピンの無定形化の推認を覆すことはできない。
以上によれば、軽質無水ケイ酸による融解吸熱量への影響は、被告製剤における結晶形塩酸ニカルジピンと軽質無水ケイ酸の配合割合の下では、結晶形塩酸ニカルジピン1g当たり2Jの限度で低く測定されるにとどまるものというべきである。
(4) 次に被告らは、融解熱DSC測定法によれば、軽質無水ケイ酸を初めとする種々の賦形剤と結晶形塩酸ニカルジピンとの相互作用により、融解吸熱量が過少に測定される((1)ウの過程)と主張する。
被告製剤に使用される賦形剤のうち、軽質無水ケイ酸の影響については、(3)で検討したとおりであるから、ここでは、その余の賦形剤成分の影響について検討するに、乙11によれば、結晶形塩酸ニカルジピン原末と被告製剤について、それぞれ165℃の熱履歴を与えた試料と熱履歴を与えない試料の双方について融解熱DSC測定を実施し、融解吸熱量を比較すると、結晶形塩酸ニカルジピン原末の場合には熱履歴を与えると融解吸熱量は10.0%低下しただけであったのが、被告製剤では31.4%も低下したことが認められる。
被告らは、そこにいう相互作用の具体的な内容については、何ら主張するところがないが、被告製剤の賦形剤中には、軽質無水ケイ酸のほか、前記基本的事実中の成分が含まれているところ、軽質無水ケイ酸による昇温過程での吸着熱の発生については先に検討したとおりわずかなものであることからすると、被告ら主張の相互作用は、それが仮に存在するとすれば他の賦形剤成分によるものということになる。そして、乙2によれば、結晶形塩酸ニカルジピン40%にその他賦形剤成分60%を配合した試料(検体2。前記基本的事実によれば、この配合割合は被告製剤中のものと同じであると認められる。)に融解熱DSC測定法を実施した場合の結晶形塩酸ニカルジピン融解吸熱量は、配合割合に基づく理論値より7.1%低下したことが認められ、これに反する証拠はなく、また、軽質無水ケイ酸の場合のように、この原因について無定形化等を原因とするとの特段の主張立証はなされていない。
この点について原告は、乙11の結果について、同じ165℃の熱履歴を与えたものでも、被告製剤の場合には賦形剤の混合による融点降下があるから、熱履歴を施す際に100%結晶形塩酸ニカルジピン試料に比べて融解による無定形化が多量に生じたことが原因であると主張する。確かに乙11における結晶形塩酸ニカルジピン及び被告製剤(共に熱履歴なし)についてのDSCチャート(図1及び図4)を見る限り、165℃までの融解吸熱量が全体の融解吸熱量に占める割合(これが同温度までに融解した結晶形塩酸ニカルジピンの割合をおおよそ示すものであると考えられる。)は、被告製剤における方が大きく、それだけ熱履歴過程での融解量も大きいものとはいえる。しかし、その割合が全体の約30%にも達しているとはいい難く、融解による無定形化のみで乙11の結果を説明することはできない。
また、原告は、甲19ないし21の結果をもって昇温時の共存物質による影響がないことが示されていると主張するが、それらはいずれも結晶形塩酸ニカルジピンの融解温度付近における吸熱量に対する影響の存否を直接に示すものではない。
以上よりすれば、乙11の融解吸熱量の低下は、昇温過程での融解による無定形化、軽質無水ケイ酸の影響及びその他の賦形剤の影響が重なって生じたものと推認するのが相当である。前記のとおり被告らは、乙11による31.4%の吸熱量低下分のすべてが賦形剤と結晶形塩酸ニカルジピンとの相互作用に基づくものであると主張するが、先に述べたところに照らして採用できない。
したがって、軽質無水ケイ酸以外の賦形剤による影響は、吸熱量が7.1%低下する程度にとどまるというべきである。
(5) さらに被告らは、融解熱DSC測定法が、無定形物の量を直接に定量するものではないことや、昇温させる過程で測定結果に影響が生じることを指摘して、その分析方法としての問題点を主張する。しかし、まず融解熱DSC測定法は、定量分析の方法として確立されており、測定結果についても各証拠の間で大差がないことから、一般的な信頼性を有する測定方法であるということができる。また、被告製剤中の塩酸ニカルジピンのうち結晶形でないものは無定形であるいうほかなく、しかも被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピンの含有量を測定するに当たっての結晶化度及び賦形剤による影響は先に述べたとおりであるから、融解熱DSC測定法が無定形物を直接定量するものでないことを問題ということはできない。
また被告らは、甲6が結晶形塩酸ニカルジピンと軽質無水ケイ酸を初めとする賦形剤との混合物に関する検量線に基づかない計算をしていることを指摘するが、融解熱DSC測定法の実施過程における賦形剤(軽質無水ケイ酸を含む。)との相互作用については前記のとおりと認められるから、その影響を加味して検討するならば、それ以上被告主張の検量線が必要となるものではない。
(6) 以上よりすれば、甲6の測定・計算結果は、(3)の軽質無水ケイ酸の影響及び(4)のその他の賦形剤の影響による修正を要する限度で信頼性がある。そして、これらによる修正を施すと、被告製剤中の無定形塩酸ニカルジピンの割合は次のとおりとなる。
ア 結晶形塩酸ニカルジピンの1g当たり融解吸熱量を融解熱DSC測定法によって求めると85.08J/gであった。
イ 被告製剤中の塩酸ニカルジピン含有量は、28.5%であった。
ウ 被告製剤5.05mgについて融解熱DSC測定法を実施すると、結晶形塩酸ニカルジピンの融解温度(167ないし171℃)付近での吸熱量を測定すると66.64mJであった。これは、軽質無水ケイ酸以外の賦形剤の影響により、7.1%低く測定されているから、それによる修正を施すと、66.64mJ/(1-0.071)=71.73mJとなる。
エ ところで、被告製剤中の塩酸ニカルジピンの総量は、5.05mg×0.285=1.439mgである。
オ したがって、被告製剤中の塩酸ニカルジピンの単位重量当たり吸熱量は、71.73mJ/1.4398mg=49.85mJ/mgとなるが、この吸熱量は、軽質無水ケイ酸の吸着熱の影響のために、被告製剤における結晶形塩酸ニカルジピンと軽質無水ケイ酸との配合比の下における結晶形塩酸ニカルジピン1g当たり2J過少に測定されていることになるから、被告製剤中の塩酸ニカルジピンの真の単位重量当たり吸熱量は、49.85mJ/mg+2J/g=51.85mJ/mgとなる。
カ したがって、被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピンの割合は、51.85mJ/mg/85.08J/g=60.9%となる。
キ また、被告製剤中の無定形塩酸ニカルジピンの割合は、100%-60.9%=39.1%となる。
(7) したがって、融解熱DSC測定法によれば、被告製剤中の無定形塩酸ニカルジピンの含有量は39.1%(約40%)ということができる。
3 争点(2)(被告製剤中に含有されている無定形ニカルジピン量)のうちのガラス転移点DSC測定法による検討について
(1) 乙24によれば、被告製剤についてガラス転移点DSC測定法を実施したところ、DSCチャートは、無定形塩酸ニカルジピンのガラス転移点であると測定された93ないし96℃付近においてほぼ平坦であったと分析されている。無定形ニカルジピンが存在していれば、この温度付近において無定形(ガラス状)固体状態から液体状態への変化に伴うベースラインの変化が見られるはずであることからすれば、乙24の分析結果が信頼できるものであれば、被告製剤中に無定形塩酸ニカルジピンが存在しない可能性も十分にあるということができる。
そこで、乙24の分析結果の信頼性について、以下検討する。
(2) まず原告は、ガラス転移点DSC測定法は、定量分析法として一般に実用に供し得るとの認識がないから、定量分析の方法として一般的信頼性に欠けると主張する。
確かに、本件で提出された証拠によるも、ガラス転移点測定法が、組成物中の無定形物の定量分析方法として一般的に利用されているとは認めることができない。また、ガラス転移というのは、結晶の融解過程と異なり、熱力学的非平衡過程であり、検体の熱履歴や乾燥・精製などの調整条件、昇温速度などの測定条件により異なり得るものである上に、その過程での熱量変化は、融解の約数十分の一という微妙なものにすぎない。しかし、前記「事案の概要」の4で記載した本測定方法の基本原理には首肯し得るところがあるから、これらの点に注意して、検体の調整条件及び測定条件を統一し、かつ、DSCチャートのベースラインの安定を図るために適切なリファレンス(参照物質)を選定するなどの工夫をすれば再現性も高まると考えられ、ガラス転移点DSC測定法がおよそ無定形物の定量分析として信頼性がないということはできない。
(3) しかし、実際にガラス転移点DSC測定法を用いた被告製剤の測定結果については、次のような疑問がある。
ア 乙24(チャート2、3)及び乙29(甲36のDSCチャートを検討したチャート1)によれば、無定形ニカルジピン約10mgについてのベースライン段差は、約0.05mW/mgであることが認められるところ、ガラス転移過程のベースライン段差量は、試料中の無定形ニカルジピンの量に比例するはずであるから、仮に同量の被告製剤中の無定形ニカルジピン含有量が約40%であるとした場合には、被告製剤中の総塩酸ニカルジピン含有量が約29%である(前記基本的事実)ことも併せ考えると、0.051mW/mg×0.29×0.4=0.006mW/mgのベースライン段差が生じることとなる。したがって、10.23mgの被告製剤中に40%の無定形塩酸ニカルジピンが含有されているか否かをガラス転移点測定法により測定するには、0.006mW/mgのベースライン段差を精度よく測定することが必要となる(この数値は、当然ながら、乙24の図1の検量線において、無定形塩酸ニカルジピンの含有量が0.12の場合の数値とほぼ一致する。)。
この観点から乙24における被告製品のDSCチャート(図3)を見ると、右チャートは被告製剤とレファレンス物質との吸熱量の差を示すチャートであるところ、レファレンス物質は被告製剤に使用された賦形剤成分70.6%と結晶形塩酸ニカルジピン29.4%の混合試料であり、仮に被告成分に無定形塩酸ニカルジピンが含まれていないとすると、レファレンスと被告製剤の組成は同一となるから、DSCチャートは0.00の一定値を示す直線となるはずである。しかし、図3のDSCチャートでは、50℃弱の時点から起ち上がりを始めて、約90℃付近で緩やかなピーク(チャートからは約0.013mJ/mgと読みとれる。)を描き、その後緩やかに降下していることが認められる。このようなチャート図になる原因には種々のものがあり得、判然としないものの、約90℃の点以降のDSCチャートが下り勾配になっていることが、無定形塩酸ニカルジピンのガラス転移による比熱の変化によるものである可能性も考えられ、また、この熱量変化が微量であることを考えると、試料の調整や測定方法による実験誤差による影響の可能性も考えられる。この点に加え、前記のように本件では0.006mW/mgもの微量の熱量変化を精度よく測定する必要があることを勘案すると、ガラス転移点DSC測定法は、被告製剤中の無定形塩酸ニカルジピンを定量分析する方法として安定したものであると評価するには疑問がある。
イ また、甲36及び乙29によれば、甲35の方法によって製造されたモデル製剤A(製造過程で結晶形塩酸ニカルジピンの全量が溶解した糊液を送風乾燥したもの)とモデル製剤B(製造過程で結晶形塩酸ニカルジピンの40%が溶解した糊液を送風乾燥したもの)について、130℃熱履歴を施してガラス点移点DSC測定法を実施したところ、モデル製剤Aについては、無定形塩酸ニカルジピンの含有率は、溶解した塩酸ニカルジピン量の80%と分析され(乙29)、モデル製剤Bについては無定形塩酸ニカルジピンは検出されなかった。他方、それらに対して融解熱DSC測定法を実施したところ、モデル製剤Aについての無定形塩酸ニカルジピンの含有量は100%であり、モデル製剤Bについては約41%であったことが認められる(甲36、乙29)。
この実験結果について原告は、一旦溶解により無定形化した塩酸ニカルジピンは、送風乾燥しても再結晶化することがないから、モデル製剤A中の無定形塩酸ニカルジピン含有量は100%で、モデル製剤B中のそれは約40%のはずであるから、ガラス点移転DSC測定法は信頼性がなく、融解熱DSC測定法には信頼性があると主張する。
これに対し、被告らは、乙28の実験結果を提出し、溶解して無定形化した塩酸ニカルジピンとともに、溶解しないで残存している結晶形ニカルジピンが混在している場合には、送風乾燥する過程で、残存結晶形塩酸ニカルジピンが結晶種となって、溶解により無定形化した塩酸ニカルジピンがすべて再結晶化すると主張した上、モデル製剤Aについては、結晶形塩酸ニカルジピンがすべて無定形化したため、送風乾燥によっても再結晶化が起こらなかったが、モデル製剤Bについては、60%の結晶形塩酸ニカルジピンが溶解せずに残存しているために、それが結晶種となって送風乾燥の過程ですべて再結晶化したと主張し、したがって、モデル製剤Aについてのガラス転移点DSC測定法の結果は正当な結果であり、モデル製剤Bの測定結果についても、理論値の80%の数値程度であれば、乙24によって作成された検量線と理論誤差及び実験誤差の範囲で合致しているから、ガラス転移点DSC測定法の信頼性は損なわれないと主張し、乙29にはこれに沿う記載がある。
そこで検討するに、確かに乙28によれば、溶解によって無定形化した塩酸ニカルジピンとともに、結晶形塩酸ニカルジピンが混在している場合には、送風乾燥する過程で全量が再結晶化することが認められる。しかし、甲41の実験結果によれば、無定形塩酸ニカルジピン及び結晶形塩酸ニカルジピンのほかに、被告製剤の賦形剤であるCMECが混在している状況下では、再結晶が妨げられて、約20%が無定形のまま残り、さらに軽質無水ケイ酸も混在している状況下では、ほとんど再結晶化しないことが認められる。これよりすれば、原告が主張するとおり、モデル製剤A及びB(甲35によれば、これらにもCMEC及び軽質無水ケイ酸が含まれていると認められる。)についても溶解した無定形塩酸ニカルジピンの再結晶化は生じていない可能性が高く、被告製剤に対するガラス転移点DSC測定法の正確性については、疑問が残るところである。
(4) 以上により、ガラス転移点DSC測定法による被告製剤の分析結果(乙24)をもって、融解熱DSC測定法の分析結果(甲6)の信頼性を覆すことはできない。
4 争点(2)(被告製剤中に含有されている無定形ニカルジピン量)のうちの粉末X線回折測定法による検討について
(1) 乙7によれば、結晶形塩酸ニカルジピンと被告製剤に使用されている賦形剤を用いて、両者の混合割合を段階的に調整した試料について、粉末X線回析測定法を実施し、バックグラウンドの補正(共存物質の影響の除去)を自動で行ったところ、7.7度の回析角について検量線を作成することができ、被告製剤の粉末X線回析測定法を実施した結果をその検量線に当てはめたところ、被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピン含有量は約95%との結果となったことが認められる。また、乙10によれば、乙7の測定結果について、バックグラウンド補正を手動で行ったものについては、7.7度のほかに13.9度についても検量線を作成することができ、両者の検量線に被告製剤についての粉末X線回析測定法の実施結果を当てはめたところ、被告製剤中の結晶形塩酸ニカルジピンの含有量は、92.2%と96.7%との結果となったことが認められる。
以下、これらの粉末X線回析測定法の結果の信頼性について検討する。
(2) これについてまず原告は、粉末X線回析測定法が定量分析には不適当であると主張する。確かに、証拠として提出された文献には、「この分析法はそれぞれの相の存在量を決めるいわゆる定量分析には不向きである。」(甲14中の70頁)、「X線回析による定量は誤差が大きいので、ほかに方法がない場合以外は行わない方がよい。有利な系について注意深く操作した場合でも正確さは5%、通常は有効数字1桁、検出感度は0.5%である。」(甲15中の493頁)、「粉末X線回析測定法による定量は精度が高くない」(甲29)との記載が見られる。しかし、同時に、甲15でも定量分析のための操作について解説しており、また、甲16及び甲17には多相系についての定量分析の手法が種々解説され、そのほかにも乙12、乙31の添付資料には、本測定法が定量に用いられる方法であることの記載があることからすれば、粉末X線回析測定法がおよそ定量分析に不適切な測定方法であるということはできない。
もっとも、これらの諸文献によれば、粉末X線回析測定法は、試料の状態や他成分の共存、バックグラウンド補正等による誤差が生じやすい測定方法であることが認められるから、具体的な測定結果の信頼性を検討する際には、これらの点に留意することが必要である。
(3) 次に原告は、乙7及び乙10共に、検量線作成のための回析ピークの捉え方が恣意的であると主張する。すなわち、<1>粉末X線回析測定法においては、すべての回析ピークで検量線が作成できなければならないから、乙7又は乙10において一部の回析ピークのみについて検量線が作成できたとしても偶然にすぎない、<2>粉末X線回析測定法においては、強度の強い回析ピークを選択すべきであるが、乙7において選択されている7.7度は弱い回析ピークであり、他の強い回析ピークでは検量線が作成できないから、7.7度で検量線が作成できたとしても偶然にすぎない、<3>乙10は、バックグラウンド補正を手動で行った点において信頼性に問題があるほか、検量線作成のために選択した7.7度及び13.9度以外に22.5度でも検量線を作成できるが、それによれば、被告製剤中の無定形塩酸ニカルジピンは35.4%になるから、粉末X線回析測定法による被告製剤の定量分析には信頼性がないと主張する。
これに対し、被告らは、<1>種々の文献上も、検量線が一つの回析ピークで作成された例があり、すべての回析ピークで検量線が作成できなければならないというわけではない、<2>乙7においては、7.7度の回析ピークが最も他の成分(賦形剤)の影響を受けにくいものであるから、それを検量線作成のために選定したことは適切である、<3>乙10は、バックグラウンド補正を手動で行った分、乙7の自動補正よりも正確なものとなっていると主張する。
そこで検討するに、甲31によれば、右の原告の主張<3>のとおり、乙10の分析結果に基づくと、7.7度及び13.9度の回析ピークのほかに、22.5度の回析ピークについても検量線が作成でき、その検量線によれば、被告製剤中の無定形塩酸ニカルジピン含有量は35.4%と導かれることが認められる。そして、粉末X線回析測定法において一つの回析ピークによって検量線を作成することで十分か否かについては措くとしても、前記基本的事実関係で述べた粉末X線回析測定法の原理に照らすと、複数の回析ピークで検量線を作成し得る場合には、そのうちに特に信頼性の低いものが含まれていない限り、すべての検量線についてほぼ同一の定量分析結果になるべきものである。しかるところ、被告らは、7.7度の回析ピークがバックグラウンドの影響が最も小さいから、これによるべきであると主張するが、その主張は必ずしも具体的ではない上、乙10の2によると、22.5度の回折ピークは最も回折強度の強いものであり、3回の測定によっても再現性があることからすれば、22.5度の回折ピークデータが信頼できないとはいい難い。
以上よりすれば、乙7及び乙10に基づく粉末X線回析測定法による被告製剤の分析結果は、これを採用することができない。
(4) また原告は、乙7及び乙10の検量線作成のための試料は、結晶形塩酸ニカルジピンと被告製剤に使用されている賦形剤とを混合割合を変えて調整した試料を用いているが、右賦形剤中には一定割合で軽質無水ケイ酸が含まれているから、各試料によって配合されている軽質無水ケイ酸の量に差異が生じるところ、粉末X線回析測定法のために試料を粉末化する際には、メノウ乳鉢で均一に混合しており、そのため軽質無水ケイ酸によって結晶形塩酸ニカルジピンの一部が無定形化することになるから、軽質無水ケイ酸の配合量が異なる試料によって得られた検量線には信頼性がないと主張する。
そして、甲22によれば、結晶形塩酸ニカルジピンの配合量は一定(約30%)とし、軽質無水ケイ酸の配合量を変化させた複数の試料(試料全体の重量を一定とするために残りはCMECを配合して調整する。)について粉末X線回析測定法を実施して7.7度の回析ピークの回析強度を調べたところ、軽質無水ケイ酸の配合量が多いものほど回析強度が強くなったことが認められる。
これに対し被告らは、乙13を指摘して、結晶形塩酸ニカルジピンと被告製剤に使用されている賦形剤(軽質無水ケイ酸を含む。)の2成分系について、各X線吸収係数の相違のみを考慮した理論的検量線を作成した場合、乙10における7.7度及び13.9度の各検量線は、右の理論的検量線に実験誤差の範囲内で一致しているから、軽質無水ケイ酸による結晶形塩酸ニカルジピンの無定形化は起こっていない旨主張する。そして、被告らは、乙14を指摘して、軽質無水ケイ酸の配合量が多いほど回析強度が低下するのは、軽質無水ケイ酸のX線吸収係数が結晶形塩酸ニカルジピンに較べて大きいことによるものであり、粉末X線回析測定法について、結晶形塩酸ニカルジピン、軽質無水ケイ酸及びその他の賦形剤の3成分から成る系について各成分のX線吸収係数の相違のみに基づく理論的検量線を作成したところ、甲22の実験結果は右の理論的検量線とよく適合するから、甲22を根拠として乙7及び乙10の信頼性を否定することはできないと主張する。
しかし、甲32によれば、各物質のX線吸収係数は各物質の組成によって一定であるところ、結晶形塩酸ニカルジピンの配合量を一定(約30%)とし、同じSiO2の組成を持つ物質として軽質無水ケイ酸と石英砂の各場合について、配合量を調整した複数の試料(残りはCMECを配合して全体の量を一定とする。)を対象として粉末X線回析測定法を実施し、7.7度及び13.9度の回析ピークにおける回析強度を測定したところ、SiO2を含んでいない試料(結晶形塩酸ニカルジピン30%とCMEC70%の混合試料)の回析強度と比較した場合、各試料ともSiO2を多く含むほど回析強度が低下することが認められるが、加えて、石英砂を含む場合よりも軽質無水ケイ酸を含む場合の方が低下の程度が大きくなったことが認められる。そして、このような差異はすべての配合割合の試料において一貫しており、差異の程度も小さくはないから、甲32の実験結果には信頼性が認められる。
被告らは、X線吸収係数の影響のみを前提とした理論的検量線(乙14)を勘案すると、甲32における軽質無水ケイ酸を配合した試料の回析強度の低下のうちのほとんどはX線吸収係数の影響によるものであり、理論的検量線によって導かれる以上の低下分はわずかであると主張する。しかし、もし被告ら主張のとおりであるならば、甲32において、軽質無水ケイ酸を使用した試料の低下率と石英砂を使用した試料の低下率との間には差異が生じないはずであるが、両者の間に実験誤差とは考え難い顕著な差異が生じていることは前記のとおりであるから、石英砂の場合との差異を視野の外に置いて、理論的検量線による回析強度の低下率と軽質無水ケイ酸の場合の低下率のみを比較する被告らの主張は採用できない。
そして、甲32において石英砂の場合と軽質無水ケイ酸の場合とで回析強度に差異が生じた原因としては、先に融解熱DSC測定法について述べたところからすれば、結晶形塩酸ニカルジピンが軽質無水ケイ酸によって一部無定形化したものと考えるのが合理的である。したがって、そのことを考慮していない被告ら主張の理論的検量線は採用できず、その検量線に合致していることを理由に乙7及び乙10に基づく検量線が信頼できるとする被告らの主張も採用できない。
してみれば、軽質無水ケイ酸との相互作用の影響を受けている点においても、乙7及び乙10に基づく検量線には問題がある。
(5) 以上のとおり、粉末X線回析測定法の結果(乙7、乙10)に基づいて、融解熱DSC測定法に基づく結果(甲6)の信頼性を覆すことはできない。
5 争点(2)(被告製剤中に含有されている無定形ニカルジピン量)のうちの偏光顕微鏡観察法による検討について
(1) 乙6によれば、浸液としてオリーブ油を用いた場合、<1>結晶形塩酸ニカルジピン原末の偏光顕微鏡像については、N観察法及びNGP観察法のいずれにおいても結晶特有の干渉光が観察されること、<2>無定形塩酸ニカルジピン原末の偏光顕微鏡像においては、N観察法では視野は暗黒であるが、NGP観察法ではガラス状の粒子の輪郭が観察されること、<3>被告製剤の偏光顕微鏡像においては、N観察法及びNGP観察法のいずれにおいても干渉光が観察されることが認められる。
被告らは、乙6を根拠に、被告製剤中に無定形塩酸ニカルジピンは含まれていないと主張する。
(2) これに対し、原告は、甲23及び甲38の偏光顕微鏡像を指摘して、それらによれば、被告製剤中に無定形塩酸ニカルジピンが含まれていることが裏付けられていると主張する。
そして、甲23によれば、浸液としてイマージョン油を用いた場合、<1>結晶形塩酸ニカルジピン原末の偏光顕微鏡像については、NGP観察法において干渉光が観察されること、<2>無定形塩酸ニカルジピン原末の偏光顕微鏡像においては、NGP観察法においてガラス状の粒子の輪郭が観察されること、<3>被告製剤の偏光顕微鏡像おいては、NGP観察法において干渉光とガラス状の粒子の輪郭の双方が観察されることが認められる。
また、甲38によれば、浸液としてオリーブ油を用いた場合にも、甲23と同様に観察されることが認められる。なお、乙36中の被告製剤についての偏光顕微鏡像についても、甲23と同様の像が観察されている。
(3) これらの偏光顕微鏡像を通覧すると、結晶形塩酸ニカルジピン原末及び無定形塩酸ニカルジピン原末については、ほぼ同様の像が観察されているといえる。他方、被告製剤については、干渉光が観察される点では一致しているものの、甲23、甲38及び乙36では、それに加えてガラス状の粒子の輪郭が観察されている点が乙6と異なっている。被告製剤の偏光顕微鏡像が常に一定に観察される保証はないことからすれば、乙6の像のみが被告製剤の偏光顕微鏡像であるとは断定できず、甲23、甲38及び乙36の各像を前提に検討する必要があるというべきである。
そこで進んで検討するに、被告らは、甲38について、被告製剤の偏光顕微鏡像におけるガラス状粒子は賦形剤であると主張している。すなわち、液浸法による顕微鏡観察においては、浸液と検体の屈折率が近いと検体の輪郭が不鮮明になる性質があるが、無定形塩酸ニカルジピンの屈折率は1.61であるのに対し、賦形剤たるCMECと浸液たるオリーブ油の屈折率は共に1.47であるから(乙30)、これらによれば、甲38の被告製剤の偏光顕微鏡像中のガラス状粒子の輪郭が不鮮明に写っているのはCMECに由来する像であると主張している。
そして、乙36によれば、無定形塩酸ニカルジピンとCMECの混合検体の偏光顕微鏡像には、輪郭の鮮明なガラス状粒子と輪郭の不鮮明なガラス状粒子が観察されることが認められ、また、同証拠中の被告製剤の拡大写真(写真5)に写っているガラス状粒子は、輪郭が不鮮明であることが認められる。
しかし、まず甲38における無定形塩酸ニカルジピン原末の偏光顕微鏡像(写真B)を見ても、輪郭の鮮明なガラス状粒子だけではなく、輪郭の不鮮明なガラス状粒子も観察されるから、輪郭の鮮明さの程度によって、無定形塩酸ニカルジピンとCMECを判別することが可能なのか疑問がある。
また、甲23は浸液としてイマージョン油を用いた像であり、イマージョン油の屈折率は1.52である(乙33)ところ、甲50によれば、浸液としてイマージョン油を用いた場合、被告製剤に使用されている賦形剤は観察されにくくなることが認められる。したがって、甲23の被告製剤の偏光顕微鏡像中のガラス状粒子は、無定形塩酸ニカルジピンによるものである可能性が十分にある。被告らは、甲23についてイマージョン油を浸液として用いることは正当でないと主張するが、イマージョン油を用いた場合に得られる像が、例えばオリーブ油を用いた場合と比べてどれだけ不正確なものとなるかについて具体的な主張立証がなく、採用できない。
(4) 以上よりすれば、甲23により、被告製剤中に無定形塩酸ニカルジピンが含まれていることは認められるが、その偏光顕微鏡像からは、含有量までは判然としない。しかしいずれにせよ、偏光顕微鏡観察法の観察結果によって、融解熱DSC測定法による測定結果(甲6)の信頼性が否定されることにはならない。
6 争点(2)(被告製剤中に含有されている無定形ニカルジピン量)のうちの原告製品の効能書による検討について
被告らは、原告製品の効能書(甲4)中の「有効成分の理化学的知見」の項に、「一般名:塩酸ニカルジピン」、「性状:塩酸ニカルジピンは、帯緑黄色の結晶性の粉末」とあることから、原告製剤中の塩酸ニカルジピンは結晶形であるとし、他方で被告製剤は原告製剤の後発医薬品であって、有効成分が同一であるとして厚生大臣から製造販売の承認を得たものであるから、被告製剤中の塩酸ニカルジピンも結晶形であると主張する。
しかし、偏光顕微鏡観察法による原告製剤の観察結果である乙6及び甲23によれば、原告製剤中の塩酸ニカルジピンはすべて無定形であることが認められる。したがって、原告製剤の効能書の記載は、融解熱DSC測定法による分析結果(甲6)の結果を否定するものではない。
7 争点(2)(被告製剤中に含有されている無定形ニカルジピン量)のうちの被告製剤の製造工程による検討について
被告らは、被告製剤の製造工程においては、原末として結晶形塩酸ニカルジピンを使用しており、それを無定形化させることは何らしていない、被告製剤の持続性は独自の製剤手段によって実現していると主張する。しかし、本件全証拠によるも、被告製剤の製造工程は判然としないといわざるを得ないから、被告らの右主張は採用できない。
8 まとめ
以上によれば、被告製剤中の無定形塩酸ニカルジピンの含有量については、融解熱DSC測定法の測定結果を採用するのが相当であり、それによれば、被告製剤中の無定形塩酸ニカルジピンの含有量は、39.1%(約40%)であると認められる。これに対する被告らの主張は、以上に述べたとおり、いずれも採用することができない。
そして、右含有量程度の無定形塩酸ニカルジピンが、本件特許権の特許出願前から、ニカルジピン製剤に使用される結晶形塩酸ニカルジピン中に不純物として含有されていたとは認められないから、被告製剤は、本件発明の技術的範囲に属すると認めるのが相当である。
<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告
<12>特許公報(B2) 昭59-48810
<51>Int.Cl.3A 61 K 31/455 //A 61 K 9/14 9/22 9/52 C 07 D 211/90 識別記号 庁内整理番号 7169-4C 7043-4C 7043-4C 7043-4C 7138-4C <24><44>公告 昭和59年(1984)11月29日 発明の数 1
<54>ニカルジピン持続性製剤用組成物
<21>特願 昭55-36514
<22>出願 昭55(1980)3月22日
<65>公開 昭56-133217
<43>昭56(1981)10月19日
<72>発明者 大村忠義
新座市片山1-6-19
<72>発明者 川田裕溢
川越市大字並木1-7
<72>発明者 有賀政義
上尾市緑丘5-16-14
<72>発明者 園部尚
埼玉県北足立郡吹上町富士見4-10-12
<72>発明者 米谷悟
大宮市吉野町2-18-1
<72>発明者 曽根千晴
松戸市二ツ木二葉町205-16
<71>出願人 山之内製薬株式会社
東京都中央区日本橋本町2丁目5番地1
<74>代理人 弁理士 藤野清也 外1名
<57>特許請求の範囲
1 無定形2、6-ジメチル-4-(3'-ニトロフエニル)-1、4-ジヒドロピリジン-3、5-ジカルボン酸-3-メチルエステル-5-β-(N-ベンジル-N-メチルアミノ)エチルエステル(ニカルジピン)またはその塩を含有することを特徴とするニカルジピン含有持続性製剤用組成物。
2 無定形ニカルジピンまたはその塩がニカルジピンまたはその塩をボールミル粉砕または振動ボールミル粉砕して徴細粉末状にすることにより得られるものである特許請求第1項記載のニカルジピン含有持続性製剤用組成物。
発明の詳細な説明
本発明は無定形2、6-ジメチル-4-(3'-ニトロフエニル)-1、4-ジヒドロピリジン-3、5-ジカルボン酸-3-メチルエステル-5-β-(N-ベンジル-N-メチルアミノ)エチルエステル〔一般名:ニカルジピン(nicardip-ine)〕またはその塩を含有するニカルジピン持続性製剤用組成物に関する。ニカルジピンは冠および脳血管拡張作用を有し脳血管障害、高血圧および狭心症の治療薬として有用である。
ニカルジピンまたはその塩は日本薬局方IX第1液に対する溶解性は良好であるので通常の製剤で充分その薬効を発現するが、日本薬局方IX第2液には難溶性であつて腸溶性に劣るためにその持続性製剤の実現が困難であつた。
持続性製剤は薬剤の投与回数の削減、有効血中濃度の維持など医療上多くの利点を有しているので、従来持続性製剤は種々開発されており、たとえは胃または腸内において崩壊し難い物質を多量に配合した製剤、薬物の顆粒や錠剤設水性物質でコーテイングした製剤、半透性膜で薬剤を被覆した製剤、難溶性あるいは親水性の高分子化合物を薬物と混合または吸着、結合させて薬物を徐々に放出するようにした製剤などが開発されている。しかしながら腸液での溶解度が小さい薬物の場合には従来の持続性製剤では持続効果は期待出来ず、バイオアベラピリテイの低下をまねくだけのことになりかねなく、このような薬物の場合には腸液での溶解性を改善するため添加物を配合して溶出性を高める工夫が必要であつた。
本発明者らはこのような技術下にニカルジピンの持続性製剤について種々研究を重ねた結果、意外にもニカルジピンを無定形(amorphous)にすることにより腸溶性を改善する添加物を配合することなく優れた持続性効果を有するニカルジピンの製剤用組成物が得られることを見出し本発明を完成した。本発明は無定形ニカルジピンまたはその塩を含有する医薬組成物を提供するもので本発明組成物はニカルジピンの腸液における溶解度が小さいにもかかわらず腸管粘膜からの吸収性に優れ、長時間にわたり安定したニカルジピンの有効血中濃度を維持できる。
本発明において無定形ニカルジピンはニカルジピン原末を摩擦粉砕して得ることができるが、好ましくはボールミルまたは振動ボールミルで微細粉末にすることにより得られる。ボールミルとは円筒容器内に磁製ボール、鋼球またはロツドなどの粉砕媒体と砕料を装入し、容器に適当な回転を与え煤体による落下の際の衝撃力や摩擦力を利用して粉砕するものであり、また回転運動の代わりにボールと砕料を入れた円筒容器をスプリングでささえ、このスプリングに強制振動を与え円筒容器内でのボールの衝突、摩砕作用によつて微粉砕を行うものを振動ボールミルという。粉砕するに際しては砕料の付着、凝集を減少させその微細化を図るために粉砕助剤の添加が好ましく、たとえば乳酸カルシウム、TC-5〔商品名、信越化学工業(株)製、成分:ヒドロキシプロピルメチルセルロース〕、アビセル〔商品名、旭化成工業(株)製、成分:結晶セルロース〕等の添加が好ましい。この粉砕工程におけるニカルジピンまたはその塩の無定化への変化はX線回析で確認することができる。ニカルジピン原末の配合量は適宜選択できるが通常組成物中その全重量に対して5~90%、好ましくは10~70%、さらに好ましくは20~40%である。ニカルジピン原末は通常結晶形を有するが(たとえばニカルジピン塩酸塩は融点168~170℃の結晶)、原末製造過程で無定形のものを得ることも可能でありその場合にはそのまま本発明の組成物となすことができる。
本発明のニカルジピンの無定形の微細粉末はこれに例えばオイドラギツトRLやRS(商品名)等を用いて遅効性コーテイングを施しただけで持続性効果が達成されるが、微細粉末化工程前後においてpH依存性添加剤、増粘剤または水不溶性添加剤等を添加し、これを製剤化することにより持続性効果を得ることもできる。pH依存性添加剤としてはたとえばセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、オイドラギツトL、S、(商品名、ドイツ・ローム・アンド・ハース社製、成分:アクリル酸-メタクリル酸エステル共重合体またはメタクリル酸-メタクリル酸エステル共重合体)等の腸溶性基剤を挙げることができ、増粘剤としてはポリエチレンオキサイド、カーボボール(商品名、B.F.グツドリツチ社製、成分:カルボキシビニルボリマー)、ポリアクリル酸ナトサウム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレングリコール(分子量6000~20000)等を挙げることができる。また、水不溶性添加剤としては、結晶セルロース〔例えばアビセル(商品名)〕、リン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。これらの添加剤または増粘剤の配合量は実用に供する製剤との関連において適宜選択される。ニカルジピンの吸収量はニカルジピンの粉砕程度およびpH依存性添加剤、増粘剤または水不溶性添加剤の添加量によつて調節可能であるので本発明組成物によるときはニカルジピンの薬効発現や持続時間の調節も可能である。
本発明組成物は常法により成形して顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤に調製することができる。これらの製剤を調整する際に通常使用される賦形剤、結合剤、崩壊剤等をさらに添加することもできる。
次に実験例および実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
実験例
対照
ニカルジピン塩酸塩結晶原末をサンブルミル(1mmスクリーン使用)を用いて粉砕処理した後、下記の処方により通常の方法で1錠35mgのミニ錠を製した。この錠剤に腸溶性皮膜であるセルロースアセテートフタレートをコートし腸溶錠とした。
処方
ニカルジピン塩酸塩 5.0mg
乳糖 20.3mg
コーンスターチ 7.0mg
ヒドロキシプロビルセルロース 1.4mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 1.1mg
ステアリン酸マグネシウム 0.2mg
35.0mg
本願組成物
ニカルジピン塩酸塩結晶原末20g、TC-5〔商品名、信越化学工業(株)製、成分:ヒドロキシプロビルメチルセルロース〕4g、アビセル〔商品名、旭化成工業(株)製、成分:結晶セルロース〕38gを振動ボールミルを用いて16時間処理した。ニカルジピン塩酸塩結晶は無定形化していた。この処理粉末を用いて下記の処方により1錠312mgの錠剤を製した。この錠剤にセルロースアセテートフタレートをコートし腸溶錠とした。
処方
ニカルジピン塩酸塩 40mg
TC-5 8mg
アビセル 76mg
直打用微粒209
振動ボールミル処理粉末
(富士化学工業製) 120mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 64mg
ステアリン酸マグネシウム 4mg
312mg
イヌに経口投与した時の血中濃度
<省略>
実施例 1
ニカルジピン塩酸塩結晶原末15g、TC-5(商品名)3g、アビセル(商品名)20.6gおよびHP-55〔商品名、信越化学工業(株)製、成分:ヒドロキシプロビルメチルセルロースフタレート〕18.2gを振動ボールミルを用いて16時間処理した。ニカルジピン塩酸塩結晶は無定形化していた。この処理粉末を用いて下記の処方により1錠500mgの錠剤を製した。
処方
ニカルジピン塩酸塩 75mg
TC-5 15mg
アビセル 103mg
HP-55 91mg
直打用微粒209 125mg
振動ボールミル処理粉末
カルボキシメチルセルロースカルシウム 20mg
L-HPC(LH-31)※ 66mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
500mg
L-HPC(LH-31):商品名、信越化学工業(株)製、成分:低置換度ヒドロキシプロビルセルロース
実施例 2
ニカルジピン塩酸塩原末20g、ポリビニルビロリドンK-30(商品名(BASF社製)20g、HP-55(商品名、60gおよびカーボボール-940(商品名、B.F.グツドリツチ社製、成分:カルボキシビニルポリマー)4gを振動ボールミルを用いて16時間処理した。ニカルジピン塩酸塩結晶は無定形化していた。この処理粉末を用いて下記の処方により1錠360mgの錠剤を製した。
処方
ニカルジピン塩酸塩 60mg
ポリビニルビロリド 60mg
ンK-30
HP-55 180mg
カーボボール-940 12mg
振動ボールミル処理粉末
ポリエチレングリコール6000 48mg
360mg
実施例 3
ニカルジピン塩酸塩結晶粉末40g、乳酸カルシウム200gおよびポリエチレンオキサイド-18 20gを振動ボールミルを用いて10時間処理した。ニカルジピン塩酸塩結晶は無定形化していた。流動層造粒機(ユニグラツト、大川原製作所製)を用いて上記処理粉末195gとカリカGS〔商品名、協和化学工業(株)製、成分:無水リン酸水素カルシウム〕150gを流動化し、ポリエチレンオキサイド-18 20gを塩化メチレン3000mlに溶かした溶液を噴霧して常法にて微細顆粒を製した。
上記微細顆粒365mgを常法にて1号カブセルに充填してカブセル剤を製した。
実施例 4
ニカルジピン塩酸塩結晶原末40g、オイドラギツトRL(商品名、ドイツ・ローム・アンド・ハース社製、成分:アクリル酸-メタクリル酸エステル共重合体)80g、アルギン酸ナトリウム4g、アビセル(商品名)200gを振動ボールミルを用いて16時間処理した。ニカルジピン塩酸塩結晶は無定形化していた。
上記処理粉末を用いて下記の処方により1錠600mgの錠剤を製した。
処方
ニカルジピン塩酸塩 60mg
オイドラギツトRL 120mg
アルギン酸ナトリウム 6mg
アビセル 300mg
振動ボールミル処理粉末
乳糖 78mg
コーンスターチ 30mg
ステアリン酸マグネシウム 6mg
600mg
実施例 5
ニカルジピン塩酸塩結晶原末50gとTC-5(商品名)250mgを振動ボールミルを用いて16時間処理した。ニカルジピン塩酸塩結晶は無定形化していた。上記処理粉末200gに乳糖140gとアビセル(商品名)150gを加え均一に混合した。この混合粉末を糖衣に通常用いられるコーテイングベンに入れ転動させた。この転動粉末にメチルセルロース10gを水1000gに溶かした水溶液を噴霧し、32~18メツシユの範囲の大きさのビルを製した。この様にして製したビルの半量をぬきとり、残りの半量を同じコーテイングパンに入れ同様に転動させながら、オイドラギツトRL(商品名)10gをアセトン70gとイソプロパノール130gの混合溶媒に溶かした溶液を噴霧処理した。このようにして得られたそれぞれのビルを等量ずつ均一に混合し、この混合物450gを0号カプセルに充填してカプセル剤を製した。
特許公報
<省略>
<省略>